東京高等裁判所 昭和26年(ナ)5号 判決
原告 籾山八十七 外一名
被告 宮本庸吉
一、主 文
原告等の請求を棄却する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
二、事 実
原告等訴訟代理人は末尾添付の訴状記載のとおりに請求の趣旨並に請求の原因を陳述した。
被告訴訟代理人は末尾添付の答弁書記載のとおりに申立並に答弁をし、本件選挙運動に関する支出金額の制限額が原告等主張とおりであることは認めると述べた。(立証省略)
三、理 由
被告が昭和二十六年四月二十三日執行せられた佐原市議会議員の選挙に於て四百二十票の投票を得、同月二十四日その当選の告示がなされた事実、原告等がいずれも右選挙に於ける公職の候補者であつた事実、被告の選挙運動出納責任者であつた弓削徹が原告等主張のとおり佐原市選挙管理委員会に対し二回に亘り選挙費用収支報告書を提出し、これにより総計金五千七百六十五円の支出報告をした事実、右選挙に於ける選挙運動に関する支出金額の制限額が原告等主張のとおり金一万五百円として告示せられた事実はいずれも当事者間に争がない。
よつて右支出報告書に原告等主張の訴状請求原因三の(イ)、(ロ)、(ハ)記載の支出の脱落があつたか否かを判断する。
先ず(ハ)の事実の存否を審究するに、証人小林武の供述によれば、小林武が本件選挙に於ける被告の選挙運動の総括主宰者として届出でた事実は認められるが、同人が昭和二十六年三月二十九日清水寛三に対し選挙運動の費用として金五千円を交付した事実については、成立に争のない甲第五号証によれば、被告並に小林武は同事実の嫌疑により昭和二十六年四月二十八日検挙せられた旨同月三十日附の読売新聞の千葉版に掲載せられたことが認められるが、証人石飛忠次郎の供述によれば右記事は石飛忠次郎が読売新聞佐原通信部に勤務中本社に通報した結果掲載せられたものであるところ、右通報は石飛忠次郎が他より聞き込んだ資料に基くものであるに留まりその出所を明確にし難く、且つこのように嫌疑を受け警察署で取調べを受けた事実がある丈では必ずしもその嫌疑どおりの事実があつたものと速断することは許されない。而して証人西本幸三、原告本人海野正造のこの点に関する原告等の主張に副う供述を外にしては同事実を認定するに足る確証がなく、同供述は証人小林武、清水寛三の供述に照し輙く採用し難い。よつて同事実は、結局これを肯認するに足る確証がないからこれを前提とする原告等の(ハ)の主張は理由がないものとして排斥せざるを得ない。
而して(ハ)の主張にして採用するを得ない以上、原告等主張の(イ)、糊又は画鋲代金五十円(ロ)、名刺印刷代金二百五十円が仮に原告等主張のとおり支出報告書に脱落していたとして、右(イ)、(ロ)の金額を報告書記載の総計金五千七百六十五円に加算するも金六千六十五円に過ぎず、到底法定制限額一万五百円を超過しないこと明白であるから(イ)、(ロ)の事実の存否の判断をする迄もなく被告の選挙運動に関する支出金額が制限額を超過したことを理由とする原告等の本訴請求は理由がないものと云はなければならない。
よつて公職選挙法第二百十九条、民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 渡辺葆 浜田潔夫 牛山要)
請求の趣旨
昭和弍拾六年四月弍拾参日執行の佐原市議会議員選挙に於ける被告宮本庸吉の当選は無効とす。
訴訟費用は被告の負担とす
との御判決を求む。
請求之原因
一、被告宮本庸吉は昭和弍拾六年四月弍拾参日執行の佐原市議会議員選挙に際し、その得票数四百弍拾票を得て同年同月弍拾四日当選の告示を受け(甲第壱号証参照)原告等は何れも当該選挙に於ける公職の候補者であります(甲第弍号証参照)。
二、被告宮本庸吉の選挙運動出納責任者たる弓削徹(佐原市佐原二の千九百弍拾参番地)は、第一回分選挙費用収支報告書を昭和弍拾六年四月拾八日佐原市選挙管理委員会に提出し支出合計金五千弍百六拾五円也の支出を報告し(甲第参号証の壱、参照)次で同年五月八日第弍回分選挙費用収支報告書を佐原市選挙管理委員会に提出合計金五百円也、総計金五千七百六拾五円也の支出報告を致しました(甲第参号証の弍、参照)。
三、然れ共右支出報告書中には左記支出が脱落致して居ります。
(イ) 糊又は画鋲代 金五拾円以上。
被告宮本庸吉は選挙用ポスターを使用したる事は甲第参号証の壱にて明瞭でありますが、之を貼用した糊又は画鋲の支出がありません。
(ロ) 被告宮本庸吉の選挙用名刺印刷代 金弍百五拾円以上
被告宮本庸吉は選挙用名刺を印刷使用し、佐原市大戸川番地不詳清水寛三に約七拾数枚を渡し選挙運動を依頼し、佐原市野間谷原番地不詳須合保治を被告宮本庸吉が訴外根本権次(佐原市浜宿)と共に訪問し選挙用名刺を示し選挙運動を依頼したるも前記須合保治は之を拒否したるも、被告宮本庸吉が当該選挙に際し選挙用名刺を使用したるは誠に明白であります。
(ハ) 昭和弍拾六年参月弍拾九日午後拾時半頃前記清水寛三が被告宮本庸吉を訪問の砌り被告宮本庸吉と協議せる被告宮本庸吉の当該選挙に於ける総括主宰者たる小林武(佐原市佐原二の一、三四一番地)から金五千円也の選挙運動費の交付を受けました。
以上合計金五千参百円也以上が選挙費用収支報告書の支出中に脱落致して居りますから、之等脱落額金五千参百円也を被告宮本庸吉の出納者より報告せられたる選挙費用収支報告書の合計額金五千七百六拾五円也と加算する時はその総額金壱万壱千〇六拾五円となり当該選挙に於ける選挙運動に関する支出金額の制限額金壱万〇五百円也(甲第四号証参照)を超過する事金五百六拾五円となり公職選挙法第百九拾八条に基き被告宮本庸吉の当該選挙に於ける当選は無効であります。尚右事案は何れも被告宮本庸吉自身に関することでありますので公職選挙法第百九拾八条の但書に該当して居ないことも論を俟ちません。
四、故に被告宮本庸告の当該選挙に於ける当選は選挙運動に関する支出金額の制限額超過に因り無効と信じますので公職選挙法第弍百拾条に基き本訴提起に及んだ次第であります。
依つて請求の趣旨記載の如き御判決を求めます。<省略>
答弁書
請求の趣旨に対する答弁
原告の請求は棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
請求の原因に対する答弁
一、請求原因の第一項は認めます。
二、請求原因の第二項は認めます。
三、請求原因の第三項は否認致します。
(イ) 糊又は画鋲代は労務者持として人夫賃の中に計上致して居りますので、糊又は画鋲代は殊更に計上致しませぬ、之は労務者篠塚安吉、弓削弘を証人として取り調べを致せば了解せらるゝ事と思ひます。
(ロ) 被告の選挙用名刺印刷代と申しますが原告の主張する名刺は被告が前回の選挙即ち佐原町会議員選挙の際作成した古い商業上の名刺で今回の市会議員選挙に就いて作つたものでありませぬ、因つて今回の選挙費用の中に加算すべきものとは考へませぬので選挙費用の報告書には加算致しませんでした。
(ハ) 事実無根に付き全部否認致します、小林武によりて明らかに証明せられます。
其れ故、仮りに、(イ)(ロ)が脱漏して居り選挙費用の中に加算せらるゝと致しましても本件は何等無効と曰はれる可き筋合ではありませぬ。
右答弁書を以て上申致します。